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横浜地方裁判所 昭和34年(ヲ)3341号 決定 1960年2月02日

申立人 高瀬泰吉

被申立人 国

訴訟代理人 家弓吉巳 外二名

答弁書

申立の趣旨に対する答弁

申請人の申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

との決定を求める。

申立の理由に対する答弁

一、認める。

二、昭和三十二年十二月六日付で申立人のため売買予約の仮登記がなされていること及び同三十四年四月三十日付で同人のため売買による所有権移転登記が為されていることは認めるが、其の余の事実は不知。

三、本件競売申立が昭和三十二年十二月二十日であることは否認し、其の余の事実は争う。

被申請人の主張

申請人は、被申請人の本件競売申立は、申請人が昭和三十二年十二月六日なした請求権保全の仮登記手続の後である同年同月二十日になされているものであるから、被申請人は申請人に対し民法第三百八十一条によつて抵当権の通知をしなければ競売申立はできない旨主張されるが、同条の規定により抵当権者が、その抵当権を実行するに当つて通知をすべき者の範囲は、抵当不動産につき所有権、地上権又は永小作権を取得した第三者に限られ(民法第三百八十一条第三百七十八条)、ここにいう第三者のうちには停止条件付第三者取得者であつてその条件成否未定の者は含まれない(民法第三百八十条)。しかして、申請人の主張される仮登記は、その主張のような昭和三十二年十二月五日の売買契約に基く請求権保全の仮登記ではなく、同日付売買予約を原因とするもの(乙第一号証)であつて、申請人において何ら本件抵当不動産につき所有権を取得したものではなく、その取得が完結権の行使を停止条件としているものに過ぎないのであるから、抵当権の滌除をすることができるものではない(民法第三百八十条。なお大決昭和八年一一月二八日民集一二巻二七六六頁参照。)

(昭和三五年一月一四日付)

主文

相手方の申立にかかる当裁判所昭和三二年(ケ)第四三六号不動産任意競売事件につき、当裁判所が同年一二月一九日別紙目録記載の物件に対してなした不動産競売手続開始決定を取消す。

相手方の競売申立を却下する。

申立費用は相手方の負担とする。

理由

本件申立の要旨は

一、相手方はその抵当権に基づき興東特殊工業株式会社所有の別紙目録記載の物件に対し昭和三二年一二月二〇日競売を申立て、これに基づき競売手続開始決定がなされた。

二、申立人は同年一二月五日右会社との間に右物件につき売買契約をなし同年同月同日の売買予約を原因として、同年同月六日所有権移転請求権保全の仮登記をし、同三四年四月三〇日右仮登記に基づく所有権移転の本登記をした。

三、相手方の競売申立は申立人の右仮登記後になされたものであるから、相手方は申立人に対し民法第三八一条所定の通知をしなければその抵当権を実行することができないものであるのに拘らず、その通知をなさずに本件競売申立をした。

よつて相手の裁判を求めるため本件申立に及ぶというにある。

相手方は申立人の申立却下の裁判を求め、答弁として申立要旨第一項のうち、競売申立の日時を争い、その余の事実を認める。同第二項のうち売買契約成立の事実は不知、その余の事実を認める。同第三項の主張を争う。民法第三八に則り抵当権者がその抵当権を実行するに当つて通知をするべき者の範囲は、抵当不動産につき所有権、地上権又は永小作権を取得した第三者に限られ(停止条件付第三取得者であつてその条件成否未定の者はここにいう第三者に含まれない。しかして申立人は本件抵当不動産について所有権を取得したものではなく、その取得が売買予約の実結権の行使を停止条件としているものにすぎないから、抵当権の滌除をすることはできないと述べた。

相手方がその抵当権に基づき、興東特殊工業株式会社所有の別紙目録記載の物件に対し競売を申立て、これに基づき競売手続開始決定がなされたこと、申立人は右物件につき昭和三二年一二月六日、同年同月五日の売買予約を原因として所有権移転請求権保全の仮登記をし、同三四年四月三〇日右仮登記に基づく所有権移転の本登記をしたことは当事者間に争がなく、相手方の右抵当権設定登記は同二九年一月二七日になされたものであると、右抵当権に基づく競売申立は同三二年一二月一七日になされたものであることは記録(同三二年(ケ)第四三六号)上明らかであるから、申立人は右物件につき、相手方の抵当権設定登記後これに基づく競売申立前に、右仮登記をしたものと認められる。

しかして民法第三八一条の第三取得者には、抵当権者が最初に通知をなす際に現存したすべての仮登記権利者を包含させるのが衡平であるから、右認定の事実によれば相手方はその抵当権の実行に際し、予め申立人に対しその旨通知をしなければならなかつたものである(記録上相手方が申立人以外の者に通知をした証左は存しない)。しかるに相手方が申立人に右通知をしたことは相手方において何ら主張、立証をしないし、記録上もこれを認めるに足りる資料は存しない。

(申立の要旨第二項によれば、申立人は本契約たる売買の成立あるにも拘らず、売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をしたかの如き主張をしているが、仮りに然りとしても、右仮登記に記載された権利変動が実体上全然存在しないものとはいえず、また不動産登記法第二条第一号の仮登記によるべき場合に同条第二号の仮登記がなされたものともみうるから、右仮登記は有効と解すべく、申立人は抵当権者たる相手方に対し対抗要件を具備するものというべきである)。

しかりとすれば、相手方は前記物件につき第三取得者である申立人に対する通知なくしてその抵当権の実行に着手したものでその競売手続は違法たるを免れず、当裁判所が相手方の申立に基づき昭和三二年一二月一九日右物件につきなした競売手続開始決定は取消されるべく、右申立は却下されるべきものである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 広岡得一郎)

物件目録<省略>

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